聞取り調査報告 (岩城こよみさんの報告 2006年9月21日の「サロン」)

聞き取り調査報告
調査者:岩城こよみ
調査日:2006年9月21日
調査地:旧黒田村(京北宮町)

調査協力者
江後富枝さん(昭和元年生まれ)
菅河嘉子さん(S,4年生まれ)
菅河恵美子さん(T,12年生まれ)
西美和子さん(T,13年生まれ)
前田芳子さん(S,11年生まれ)
調査テーマ 「人生のエピソード」
調査項目   人生において最も心に残る味

 今回の黒田村における調査は、私にとって初回であった。そこで、ご婦人達との自然な会話の中から調査テーマにあった調査項目を模索することにした。

 調査時はちょうど稲刈りの折であったので、稲刈り体験談から始まり、嫁の仕事としての畦豆の草刈苦労談、小豆と大豆の利用方法についてなど話が及んだ。そこで、畦豆は味噌仕込みに使うのみか、という質問をした。すると、味噌はもちろんだが納豆も作るのだ、という答えが返ってきた。そこでまず、今までの人生において最も心に残る味とは何であったか、という尋ね方で今回の聞き取り調査を始めた。

 そこでまず皆さんが口をそろえて言ったことは、納豆餅についてである。納豆餅は、正月料理としてはもちろん、ヤブイリ等での手土産や、テンゴリ、ケンズイとして幅広く利用されてきた。その反面、急な入用にも対応できるよう各イエで蓄えておかなければならぬ食べ物でもあった。泊まり山ではもちろん、子供の弁当としても食された。納豆餅は日常的に食すものとしてよりも、何かの折に食べるものとして楽しみな味覚であった、という。直径30僂發△蹐Δというほど大きな納豆餅を、ちぎりもせずにかぶりついていた大人達の光景を思い出すとおかしいし懐かしい、という。また戦時下においても納豆餅は重宝し、黒田の人々にとっては欠かせぬ食べ物であったという。

 納豆餅を考えるとき、第一の魅力は豊富なタンパク質源としての価値、第二の魅力はその腹持ちの良さ、第3の魅力は保存食品や携行食品として幅広く利用できること、である。そしてそれら3つの魅力を差し置いてやはり、もともとの納豆餅のもつサイズの大きさという視覚的インパクトと、焼き餅と納豆と黒砂糖等の調和から来る美味という味覚的インパクトは大きい。納豆餅は、今回調査した黒田の人々の心の中に共通認識として視覚的にも味覚的にも強烈なものとして残っている、といえるものであった。今日における納豆餅の小型化やその消費量の減少が、過去の納豆餅をより強烈なものとして思い起こさせることを助長している側面もあるだろう。納豆餅の作り方や、携行時の包装方法等、その実態詳細については紙面の制約上、またの機会に報告したいと思う。

 次に、しんこ(ちまき)である。しんこは保存食とまではいかなくとも、半月は日持ちするものであった。こどもの日にはもちろん食すが、それよりも特に、ヤブイリの手土産として持たせてもらうのが楽しみであった、という。里帰りにおいて食すしんこは格別においしかったと思う。しんこを熊笹で巻く方法にも個性がある。その巻き方と地域性やしんこの作り方といったしんこの実態詳細については紙面の制約上、またの機会に報告したいと思う。

 その他、朴葉めし、牡丹餅、おはぎ、笹餅など、生活の中の節目において食す食べ物、その中でもとりわけ菓子類が、心待ちの味覚として、皆さんの心に強く残る味となっていることがわかった。流通食品による均質な味覚が当たり前のことになった今日においてはなおさら、一昔前に工夫を凝らして作ってきた個性豊かな菓子類への愛着とそのエピソードが心に強く残ることと思う。味覚を考えるとき、おふくろの味という各イエにおける個性豊かな副食品の問題があるが、その問題について今回は一切質問しなかった。またの機会にゆだねたい。